《新風青嵐の放談コラム》臨時号

大海と、空の高さと、土の温もりと

「一粒の種の願い」

 5/6、突然の訃報の連絡に、発すべき言葉を失い胸につかえてしまいました。北海道農業協同組合中央会 山口副会長がご逝去されたとの知らせにです。

 昭和49年度
 十勝地区農協青年部協議会の第13代の会長を務められ、組合長になられてからは地元とよころ、十勝はもとより北海道、また日本農業のトップリーダーとして活躍するお姿を、信頼し羨望と期待のまなざしでその背中を見ていた多くのJA青年部盟がいました。
 それは山口先輩の時には厳しく、時には優しく、そしてまたウィットに富んだ、どの方にも分け隔てなく接するそのお人柄によるものだと思います。私の周りにいる者も多くが山口副会長の、大先輩のファンでした。

 特に青年部には、私には目をかけていただきました。
 父が地元JAの常勤役員を勤めていた当時、ヨーロッパの視察などで一緒だったことから、お会いするたびに、
『親父さん元気か?』
が挨拶がわりでした。
 青年部全道大会の時、自身が来賓担当の副会長の役目に肩の力が入っているのをさりげなく、親しげに『平ちゃん』と呼んでいただき、緊張をほぐしていただきました。どれほど助かったことか…。

 政策議論の場面では注目される主産地北海道の担い手の立場として、ご一緒に上京し農水省企画評価との意見交換後の懇親の場で、『これからは、平ちゃんの時代だぞ!頼むぞ!』と、ほろ酔いの表情にも力強いまなざしで激励を受けたことは、生涯忘れることはないのだと思います。

 私が道青協会長に就任してからは、農業構造改革の議論が一層加速し、山口副会長も激務が続いたのでしょう。昨年末、道青協基本政策検討委員会がまとめた提言書を
『たいへん精力的にまとめたね。』
と誉めていただきました。
 しかし、手渡したときも随分おやせになられて、私の
『今度、十勝選任の青年部役員と会食の機会を持っていただけますか?』
のリクエストに微笑んでいただいたのが心なしか辛そうでもありました。
 振り返ればその時既に、病魔は静かに、しかし確実に山口副会長の身体をむしばんでいたのです。

 年が明けて、お見舞にうかがった時、誤診なのでは?と思えるほど、普段の元気な山口副会長に、
『平ちゃんこそ、人間ドックにかかりなさい。若いからといって油断をしちゃ駄目だ!』
と叱られました。

 後日、お見舞の礼状を病床からいただきました。《原文のまま》

 農業は生命の源です。国を挙げWTO、FTA農業交渉、基本計画の見直し等急ピッチで展開する国際規律対応の準備が急がれる極めて重要な時、全中会長として東奔西走する宮田会長の留守を預かりJAグループ北海道をあげて全力で取り組んでいる処でありますが「副会長は元気だね」まともに受けつつ「健康に気を付けて!!」の忠告気にする事なく駆け抜けてきたツケが還暦を迎えた新年早々人生初めての入院加療の仕儀に相成りました。
 今更ながら日頃の不摂生を反省しつつ、多くの皆さんに御迷惑、御心配をお掛けしている事、誠に申し訳なく、心よりお詫び申し上げる次第です。
 現代医療の粋の後押しを受けつつ、免疫力を高めるのは本人の気力第一と心得、多くの先輩、同士の方々の心暖まる御見舞、励ましをいただき、「命は皆んなからの預かりもの」と肝に銘じているところであります。
 私自身至って意気軒昂、気力充実しておりますが、決してあせらず、元気一杯笑顔で共に汗を流すことお約束したいと思います。
 まずは取り急ぎお礼まで。

 私のようなもにまでと、感激しすぐに手紙を送りました。《原文のまま》

 このところの陽気で、白い大地から土塊がのぞき、息吹き始まる胎動を予感する季節になりました。ハウスの中では、若緑のビートの幼芽にたくましさを感じ、「さぁ、今年も頑張るぞ!」と春モードにかわりつつある今日この頃です。
 先日はご丁寧にお礼のお葉書をいただき、山口副会長に勇気をいただいたようで感激であります。私のような者までにお心遣いをしていただき、ご心労たえないのではないでしょうか。どうぞごゆっくりお休みになられて、しっかり治療され現場に復帰していただきたいと、山口先輩のファンの一人として全道盟友の声を代表しまして、お元気になられるよう心からお祈りしております。

 さて、あらためての報告なのですが、私この度、全青協創立50周年の節目にあたる2月9,10日開催の記念大会において、平成17年度全国農協青年組織協議会 副会長の選任にあたり立候補表明をし、選任規程により先般3月10日の臨時総会で御承認をいただき5月の定期総会をもって就任する事となりました。
 今更ながら、課せられる責任の重さに身の引き締まる思いであります。同時に、主産地北海道の担い手として求められているものの大きさを実感します。当年不惑、精神身体ともに余計な贅肉が付いてしまい青年のきらめきもすっかり枯れかけてしまいましたが、もとより微力ながら与えられたものに精一杯の努力を惜しまず、
『大地に根つき、土を継なげ、太陽に感謝し、雨に笑い風によろこぶ農の防人』として、踏み出す勇気を与えていただいた多くの先輩、同輩と、共にあるべき先達者たらん想いを今は止めることができません。
 そんな後輩に、今後とも変わらぬご指導、ご協力をお願いいたします。全快された暁には、宴席にて十勝の青年部会長共々、武勇伝を拝聴し、御導訓をいただく覚悟でございます。

 最後になりましたが、養生されまして“共に汗を流す”お約束が、必ずや果たされることを十勝の大地から祈願しております。まずは御報告まで。

追伸
 本年11月開催予定の十勝地区青協の“JA青年大会”は30回の記念大会です。当日は、歴代役員の皆様をお招きし盛大な大会にしたいと意気込んでおります。
 どうぞご期待下さい。

 結局、“約束”を果たすことはできませんでしたが、私達の思いはきっと通じているのだと確信します。それは山口副会長の意志を我々が受け継ぐからです。

 実はお見舞の時、お客様でお疲れの様子もみせずに、皆さんに激励の言葉をいただいたのだと、聖書の一節を披露していただきました。
 主旨は
『麦の種はやがて大地に播かれ、一粒は何十倍、何百倍にもなる。』
というものだったと思います。

 “例え私がこの世から無くなっても、麦の種子がやがて新たな穂を結び何百倍にもなるように、意志は次代に受け継がれていく”…の解釈でよろしいのか、どうしてもオリジナルが知りたくて書店に機会ある毎に足を運ぶのですが、要領を得ません。
 思慮が足りない私は真意を確かめる術を無くしてしまい、副会長は応えてくれないところに旅立ってしまいました。大きい目標を失ったようで残念でなりません。御家族、御親族の思いも、いかばかりかはかり知ることは適いません。

 しかし、遺され者のなんたるかを“一粒の種”の願いに託す、そんな一見儚い人の命であっても何よりもかけがえのない事であることを私達に伝えたかったのではないかと思います。

 先人達の英知と情熱を私達が継受し今があるように、この受け継がれるべき意志を連綿と次代に継承していくのがこの時代に生きる当事者の努めだと深く心に刻み、今はしずかに哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りするのみです。

【弔文/哀しいなごり雪の中で】
貴方のことは幾年を越えて、多くの人に語り継がれることでしょう
多くの人にその意志は継承されることでしょう
たとえその足跡が降る雨に消え、吹きすさぶ風の中に紛れ散らばり、見守られることがなくても、行き先を照らす見果てぬ夢を私達は求めて止まないからです
土塊に生きた農人の魂の叫びを、称え英雄の詩を私達がうたい継ぐからです
貴方はその夢を照らす永久の未来の旅に就かれました
あまりに駆け足で…。今はどうぞゆっくりおやすみ下さい
貴方を超えていく幾多の困難を、乗り越える力を与えて下さい
そして私達をいつまでも見守り導いて下さい

どうか安らかに…

平成17年5月7日

北海道農協青年部協議会 会長 平 和男

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