《新風青嵐の放談コラム》6月号

大海と、空の高さと、土の温もりと

「そこに神様がいる」

 よく『忙しいでしょう〜』と色々な方から、声をかけていただきます。
 農家であること自体、暇な時はそうないのですが、“農協青年部で役員なんかやっていると大変でしょう”というニュアンスなのか、気遣ってくれる事が今年は特に多くなったように思います。

 先日も管内のある組合長から
「殺人的な忙しさでしょう?」
と、声をかけられて色々な意味で期待度の高さを真正面から受けるのですが、それでも“やるべき事をやり、出るべき処に出て、言うべき事を言う”は私を動かしている理念的主義です。(札幌や東京大手町でかっこいいこと言っていても、自身のビート畑が草ボウボウ…。なんてことはできないと思っています。)

 だから、オンシーズンになれば除草機作業(カルチベーター)は近所のどの人よりも早起きしてやっているつもりですが、もちろん私だけが特別早いわけではなく、農家であれば当然のこと。
 特に“上農は草を見ずして草を取る”とか、殺草率を高めるために“除草は早朝から…”は基本中の基本なのだと思います。これに類する格言がたくさんあるのも、耕種農家の除草作業がいかに大変で大事なことかを表している事の証になるのではないでしょうか?

 カルチィングは、早朝から快晴で日中気温が上がる日が最高の条件。草退治のベストタイミングですから、そういう日が何日(2〜3日)か続くと殺草率は更に上がり安定します。篤農家は体験からそのことを学び後代に伝えてきました。

 早朝…
 日の出の1時間ほど前から、勇んでトラクターで現場に“出勤”。今日もこの仕事がうまくいきますようにと畑に正対します。

 あるとき、不思議な体験をしました。
 日の出の頃、それまで聞こえていた野鳥のさえずりが一瞬静寂になり、空気の質が変化したような…。全身のアンテナを注意深く張り巡らすと、本当に一瞬のことですがその変化は劇的です。
「…?、何だろう…。」
 木々が騒然となり、作物達が、そして土が一斉に目覚める…
 野鳥の命の叫び、川底の魚たちの英俊、森の生き物たちの躍動。大河の岩をはむ、時を刻む流音…
 昨夜からの露を消し去る地平線からひいでる太陽に、新たな命と全ての精と生が、呼応するかのような胎動と覚醒…
 それらが大地を耕すトラクターの心地よい振動をとおし五感に流入してきました。
 偉大な自然に畏怖を感じおののき、小さき者のさだめに言い知れない恐怖感と充足感とに包まれ、一人取り残された感覚に陥ってしまいました。本当に一瞬でした…

「…神様…か?」
 少しオカルトティックな話でも実体験…
 森には森の、鳥には鳥の、川には川の、土には土の、作物には作物の、周りの全てのものに神様がいると、この時思いました。

 そういうものに囲まれて、小さきものは今日も大地に向かい合う…
 農人として…

Copyright(C) 2007-2008 ひら農園 All rights reserved.

inserted by FC2 system