《新風青嵐の放談コラム》7月号

大海と、空の高さと、土の温もりと

「会議室のテーブルからは…」

 7/1、大手町の会議室を飛び出し全青協の理事会をかねて北海道農業、特に十勝の生産環境を視察していただきました。
 道青協役員はもとより、現地の対応に当たった十勝、上川の青年部役員、盟友には農作業の多忙な中、意見交換などに参加され懇親を深め、お互いを刺激し合う大きな成果を収穫出来たのではないかと思います。事務局への労いも含め、あらためて参加者、関係者の皆さんに感謝します。

【現場だ!】
 全青協藤木会長が『現場主義』を掲げて、まず、北海道畑作にターゲットを絞ったのは昨年からの様々な伏線がひかれていた結果によるもので、当事者にとってもこのことは大きなチャンスでした。

 昨年(H16)3月、平成15年度の“原会長体制”のもと『全青協基本政策検討会』が召集され、私は道青協畑作担当副会長の立場から選任を受け、畑作主産地の担い手を代表して全青協の政策議論に参加しました。藤木会長は熊本県青連の委員長として、議論のテーブルを同じくしたメンバーの一人でした。

 当時、新基本計画の策定に向け国の審議会企画部会で様々な議論がなされていましたが、特に主要三課題の内、“品目横断的支援政策”や担い手のイメージ“プロ農業経営”について意見が交錯し、交通整理がされていませんでした。
 なにか入り口につっかい棒がかかった、統一感のない議論に終始していた…そんな印象を受けていた時期です。説明責任を担う当事者がそのテーブルに就いていないのだから、しようがないことではあったのだけれど…(本道関係者は道の農政部次長西山氏(当時)だけでした。)
 主産地北海道の担い手の立場からこの鬱積とした心のはけ口を求めていた矢先の『全青協基本政策検討会』の召集でした。
 『検討会』では、全青協の理事者も議論の方向性を模索している状況で苦慮していましたが、私は私自身の立場として、“品目横断”についてメインキャストとしてこの施策の概念と導入部分について説明をさせてもらうのです。いわゆる、大規模畑作を可能にしている“輪作”農法についてです。

 もしもその時、 「説明だけでは解らないから、オンシーズンにひら農園を視察しましょう。」
と、なっていれば、この時点での青年部の政策議論も違う意味合いを持ったかも…おそらく『なぜ北海道の平は、これだけのことを主張するのか…?』
原会長も、三上副会長も、牧島理事(長崎)も、相田理事(新潟)も、横野理事(石川)も、そして藤木委員長も理解度数がかわっていたかもしれません。その思いが、今回の現地視察につながる伏線の一つでした。

【加速する農業構造改革議論】
 年度が明けて、“三上会長体制”になってからは青年部でもその議論の加速度は増しましたが、逆に府県稲作と北海道畑作の座標軸が明確になりました。

 例えばこんなやりとりです。

三上/北海道には、相応の予算がいってる。まだ欲しいの?なんか欲張ってない?
平/その予算に見合うだけの、犠牲を払っている。現場で血を流している代償だ。

とか…

三上/産業施策の優先順位はわかるけど、農村が枯れちゃうでしょう。小規模や、兼業も生き残れる政策じゃないと…。
平/北海道では、主業農家を産業施策で守ることこそが農村振興に適う施策だ。小規模や、兼業も…という施策が実現できるのであれば、誰も借金してこんな苦労してまでやらない。農村なんかとっくに死んでしまっている。

とか…

三上/品目横断も、甜菜やでん粉馬鈴しょが入ると結局、北海道畑作対策に特化してしまう。納得できない。
平/米は先行してナラシの経営所得安定対策が導入されている。その次は“輪作体型を基とする大規模畑作”と平成13年8月の経営関連諸施策をまとめた大綱で担保されている。そもそも、品目横断とは平成14年度の畑作政策運動で北農中が投げた“輪作助成金”がベースになっている。農水省はその宿題がえしを“品目横断”とまとめたものだ。逆に脇役が横入りした議論をしないで欲しい…が、本音だ。

とか…

三上/でも、品目横断だと北海道畑作だけが良い想いをするイメージだ。
平/仮に、自分たちの全ての主張が盛り込まれる品目横断であっても、劇的に経営環境が好転するとか、バラ色の農業人生が保証される等と言うことはない。今以上のものを求めるのならば、今以上の努力はしなくてはいけないということだ。
とか…、
三上/経営所得安定対策では、稲作農家において、転作麦、転作大豆を包含した安定対策でないと意味を成さないのではないか。
平/転作麦、転作大豆を、今まで本気で作ってこなかったつけを国民が負担してきたことを反省するのが先だ。その認識がなければ、米政策改革は進まない。少なくとも、北海道畑作の“本作”麦、“本作”大豆は生産者の努力している次元が違う。そうしなければ食べていけないし、それが産地の生産責任だからだ。

とか…とか…

 北海道畑作の生産環境を知らない三上会長だからこそ、逆に説明しやすくなりました。特に“捨作”批判については平成14年春の“DON(麦赤かび病)”の問題以降、畑作農家の理論武装の核となり、『努力した生産者がより報われるべき施策』を言わしめています。

 また、平成16年度全青協土地利用専門部会の部会長、室井理事(栃木)とはこんなやりとりがありました。

室井/地域農業水田ビジョンも、東京ではこんな美しいコンセプトがちりばめられているのに、現場じゃ交付金を如何にしてもらうかの議論だ。行政の作文で現場の農業者に理解されていない。もどかしい…
平/だから、行政やJAも含めてその“危機感のないところには税金を使いませんからね”ということに気づくべき。たとえお上に言われなくとも、やっているところはとっくの昔にやっている。例えば、夕張のメロン、富良野の玉ねぎ、平取のトマトがそうだ。

【レギュラープレイヤーの評価】
 でも、稲作の政策環境、産業構造の立ち遅れが能力ある青年農業者の意欲を阻害していることも同時に理解できました。“まず、米を…。”の想いは議論のテーブルにいた仲間とそう変わるものではありません。
 平成16年度は白熱した政策議論の渦中にいたから、露出度も高かったし北海道畑作の担い手として注目されていたこともあり、最前列正面でその風を受けることがたくさんありました。いずれにしても、三上さんや室井さんには帯広十勝の生産環境を見ていただきたい…また違う形で議論できることを楽しみにしているのです。

 では、こうした“現場”への回帰は、特に政策議論の中で最大公約数を大きくするでしょうか?
 今回に限って言えば、解ってもらう努力はしたけど、これからは解る努力をする立場になります。それには、多様な形態とその価値をお互い認め合うことから始めなくてはなりません。

 控えの選手を育て選手層の厚いチームを作るのも大事。しかし、意欲を喚起し、ファンの声援に応えうるレギュラープレーヤーのプレーを公正に評価する事も大切です。もちろんプレーヤーたるやその期待に応えるだけの、トレーニングは欠かすことが出来ない…そうした努力の積み重ねにファンは拍手を送りたいと思っているのです。

 足の速い一番バッターの、送りバントの上手い二番バッターの、ホームランを打っても派手にガッツポーズしない五番バッターのトレーニングと、球団からの評価は違って当たり前です。そういった、プロフェッショナル度をファンに理解できる形で正当に評価しなければならないと言うことです。

 また、施策対象責任というと大げさですが、少なくともファンの期待に応えるだけの能力は最低限必要ですし、そうでないから、いわゆるそれが“バラまき批判”になっていることに気づくべきです。

【夢と志で…動かした暑い夏】
 以上のようなことを昨年7月、全国緊急代表者集会で発言しました。表題『会議室のテーブルからは…』はその集会での意見表明の一文です。

 原文は
 『〜構造改革が加速する中にあって、私達が主張するものは一貫して変わるものではありません。それは…例えばどんなに素晴らしいブレーンがいて、大手町で、霞ヶ関で、永田町で、議員会館で、美しく、よしんば逞しい議論がなされていても、その会議室のテーブルからは、お米一粒たりとも、ジャガイモ一個たりとも、牛乳一滴たりとも作り出すことは出来ません!
 それを、生産しているのは私たち現場の人間です。
 その現場の人間が、けして故なき不条理、不具合にあわず、自身の抱いた夢や志が自身の工夫と努力次第で適えられることの出来る…そんな生産環境を望んでいるのです。ただそれだけです!』

 雛壇の代議士の憮然とした表情とは好対照に、会場からの拍手は東京の気温を更に0.1度上昇させたような熱気のあるものでした。(前日大手町39.5度)藤木副会長(当時)にも、「長すぎ…」と指摘を受けましたが、自身も興奮からか体温を平常に戻すまでに時間がかかりました。
 これからあの暑い夏を何度経験するのでしょう…

 まずは、互いの長所を伸ばす“現場主義”の視察研修でありたいと思います。その最初の一歩を十勝に記してきたことを生涯忘れません。

Copyright(C) 2007-2008 ひら農園 All rights reserved.

inserted by FC2 system