《新風青嵐の放談コラム》WTO香港閣僚会議JA全青協代表団レポート号

大海と、空の高さと、土の温もりと

「誰も何かが出来る…!」

【通じる想い】家族農業者の声・共同宣言
 世界農業者連盟(IFAP)のサミットが交渉前日12/13に開催され、JAグループはこれに参加し、WTO農業交渉は大多数の加盟国の声が反映されていないとして、ACP、G33、G10、EUの加盟国など128の国と地域の農業者代表による共同宣言を採択しました。

 この共同宣言文は、従来から日本が主張してきた『多様な農業の共存』と『農業の持つ多面的機能への配慮』が世界共通の願いであることを確認し、とくに主要各国の閣僚級による基調講演は、日本を代表しての中川農林水産大臣のアピールが各国に非常に高い評価を受けた内容がベーシックになっています。

 中川大臣はそのスピーチの中で、例えば、LDC諸国において開発にかかる対応を単なる資金の提供や、市場アクセスを供与するのみではなく、農業資源(水、土壌)の改良や営農技術(収穫、保管)支援、一村一品運動などの推進を提唱し、今回の開発ラウンドにより共存共栄がはかられ相互に世界貿易の利するものを共有しようと主張したのです。
 また、輸入・消費大国日本と食糧難を抱える後発後進国の実態を正視すると同時に、“もったいない”から発する節約・倹約の思想は世界の富を平準化することが出来るとし、一部の輸入国や、一部の力ある輸出国で交渉が決定されることがあってはならないと、警鐘をならしています。
 さらに、自然を相手にする農業の特質(一年一作)を鑑み、多様な農業の共存を前提に、貿易の発展や飢餓の撲滅に貢献するとして、交渉においては、“譲るところは譲り、守るところは守り、攻めるところは攻める”とまとめました。

 WTO香港閣僚会議は、この世界農業者連盟共同宣言が大きなターニングポイントになっていたと振り返る事が出来ないでしょうか?
 我が国の交渉力に大きな弾みと、先導性を内外に示した今回の交渉のハイライトだと思います。

【友国農業者の声と視線】再会
 全青協代表団の派遣目的は、JAグループ、政府、与党などの交渉団を側面、後方から支援することと、グローバルリズムとは何かを実体験する(国際交渉現場のその緊迫感を感じ、我が国農業の羅針盤を探る)こと、さらに、G10友国の農業者との連携強化をはかり、草の根運動の取り組みの底辺を広げようというものです。

《フランス青年農業者組織との意見交換》12/16 参加者約100名
 JA全青協とフランス青年農業者組織は2003年の世界農業者青年大会においての共同運営や、両国間での青年大会への招へいなど積極的に交流を進めてきました。
 特に本年7月は、全青協理事者は国際担当のグロメール副会長宅の農場視察するなど、同じ青年農業者の視点で食料、農業の将来を憂い、農村の振興に挺身するものとして共鳴するところの多くを認識しており、彼らとの香港での再会は食料輸入大国日本の農業者とEUの農業大国フランスの農業者との貴重な接点と、連携の強化を確認する重要な機会となりました。

 意見交換では、センシティブ品目の扱いや上限関税の導入について、私達の主張に理解を示し同調することや、メディアの“農業がブレーキをかけている”との論調について、啓発活動と同時に、世論形成に多大な努力と情報発信の工夫をはかり、主張すべきは主張していることの国内対策を、具体的な事例で紹介しました。

《ノルウェー農業者連盟、農業協同組合連合会、スイス農業者連盟》12/16 参加100名
 ノルウェー農業者連盟が自国の食料主権を訴え45日間かけて、ジュネーブにむけた2000km先の壮大なマーチの計画が明らかになったのは、本年5月にパリで開催されたG10農業団体会議。
 この企画は、WTO交渉がG5(アメリカ、EU、ブラジル、インド、オーストラリア)の主導で交渉を進めていることに対する危機感から、農業者自らアピール行動を行うものとし、当時、モダリティーたたき台の一次案が掲示される予定だったH17、7月末に向けて「自国で食料を生産できる権利(自国の食料主権)」や「農業の多面的機能への配慮」を共にアピールし、当時のグローサー農業交渉議長に要請書を手渡すこと主旨としたものです。

 JA全青協が日本を代表して共に本年(H17)7月、スイスの農業者と合流し、ジュネーブ・WTO本部を目指してのマーチに参加した経緯から、アジアは香港での再会を約束しそれが実現できたことは、国境や立場の垣根を越え、世界の家族農業者の想いを確認するたいへん意義の大きな邂逅でありました。

 意見交換では、消費者との相互交流や、農業現場の理解のための取り組みについての事例紹介や、アメリカ、G20の主張について世界貿易の富が、一部の多国籍企業に集中してしまう懸念があることなど多くの部分を共有しました。

【ネゴシエーター】大臣がグリーンルームから出てこない…
 地元選出の代議士であるから、多少手前味噌になることは承知していただきたいですが、平成10年に一度、農林大臣を歴任された中川大臣は、この交渉ステージにあって最も、議論の経過とピン留めされた事実を整理し、しっかりと発言できるいわゆる“仕事の出来る大臣”であることは、業界・関係者の間では認知されている話です。
 WTOの交渉舞台でも、発言力の大きさは、経産大臣を経験しているからのみではないはず…
 例えば、シアトルやカンクンの前段に『負け試合』に行く悲壮感を地元北農中関係者などに漏らしたことがります。
 当時、国内の農業構造改革に成果が上がらず、国内対策の方向性を見失っていたことが、交渉カードを貧相にしてしまったことを図らずも吐露したことになるのですが、カンクンなどで実際に交渉の最前線にいて、英語で時としてジョークやスラングを交えながらネゴシエートできる代議士が、他にいたでしょうか?…いるでしょうか?

 さて、その大臣も今回は(今回も)よく頑張ったと、JAグループWTO対策本部委員のみなさんから高い評価を受けています。
 連日の徹夜に近いグリーンルーム(非公式の有力少数国によって行われる会合、事務局長室の壁の色に由来する。)の交渉は同行する事務サイドのワーキングをフリーズさせました。よって、私達のような側面支援部隊は“待ち”の時間に有効有意義な行動を昇華しなくてはいけません。
 適度な緊張感は、我々をさらに逞しくさせていきます。

【アジアの中の日本】韓国農民のデモと豊かさと貧しさの混在
 連日地元のメディアは、韓国農民の過激な抗議行動をリークしていましたが、意外と香港市民は韓国農民の行動に対して同情的でした。それは香港の歴史的背景を理解しないと語れません。

 香港はいわゆるイギリスの統治を受けて以来、自由主義、自由市場のもっともその恩恵を受けていた都市であると同時に、貧しいものを多く創出してきました。
 いわゆる勝ち組と、負け組の差が激しい…しかも、富める者は徹底して貧しい者の上に君臨してきました。
 はたして、中国本土に返還されてから、その体質は変わったでしょうか?米欧主導の、今以上に弱者からわずかなものを搾取しようとするかのような農業交渉の現場に、体を張って抗議する韓国の農民の姿を、そういった貧しい環境を共有してきた東アジアの同胞達を、悪い印象で受け取る市民は実はそう多くないことを想像できます。

 しかし、ここに日本人が加わるとどうなるでしょうか?
 (事態は一気に複雑になるでしょう…)
 やはり戦後は今もって精算されていない気がします。
 それは日本語で会話する私達を見つめる現地の老人達の視線であり、それに違和感を覚えてしまう私達の心根の問題があります。答えの見いだすことの出来ないパラドクスが、アジアの彼の地にもあるのです。

 たしかに、何か出来たのではないか?何かしたかったという想いは誰にでもありましたが、それをいう前に、やらなければいけないことを、やっていなかったことを自己消化するべきだと考えます。実は我々には足らないものだらけなことを気づかされるのです…

 真にアジアとの共生を実現しようとするならば、韓国の、中国の青年農業者と、フランスのレイエ会長やグロメール副会長と笑顔で握手したように、それが出来なくてはいけません。
 次世代に継なぐ大きな宿題です。愚息の習う第二外国語はフランス語やドイツ語でもいいですが、やはりハングルや、中国語であって欲しい…そうあるべきだと思うのです。

【香港閣僚宣言をどう読むか?】国内メディアの感度
 概して、今回の閣僚宣言は我が国内において「重要課題を先送り」とか、「決裂は回避したが…」と言った論調で「コメ、今後集中砲火も」などという物騒なものまでありますが、確かにこの論調は間違いではありません。

 しかし、交渉現場の近くにいた私達の受けた印象は、若干相異があります。
 …と、いうか一般紙の論調は“農業保護はダメで、その改革が進んでいないせいで国民は割を食っているのだぞ!”をベースに組み立てられている感を否めません。
 ちなみに、ウルグアイラウンド以降、農業分野において、我が国の改革度はむしろ加盟国の平均値よりかなり進んでいるし、少なくとも国民はその恩恵をどの国よりも、享受しています。
 つまりはその代償が、先進国中最も食料自給率が低い国であるということなのです。
 しかしその事を、非常に危惧している良識を持った知識人や、国民が増えてきていることを、なぜか大新聞は取り上げようとしません。

 ジャーナリズマーの感度の悪さを嘆いてみても仕方がないし、メディアのなかで特に活字の限界はこんなところかもしれないと思いますが、限られたメンバーであっても、その“現場”に私達や、藤木会長はもっとも近くにいたことは紛れもない事実であり、思いのままと客観的な視点で国民にどう伝え、理解してもらうかが派遣された代表団のテーマの一つであると考えます。
 伝える工夫、メッセンジャーとしてのレッスンを惜しんではいけないと思います。

【俺達は何かが出来る】イニシエーターとしての役割
 印象にのこったことが…
 奥様や、家族、仲間にお土産を買う団員の皆さんの表情が輝いていたことです。
 クリスマス直前ということもありましたが、愛する者の笑顔にほだされまた、その笑顔に応えるために私達は汗を流しているのではないでしょうか?
 そして、その愛する者の笑顔を守るために、遠い香港の地に多くの盟友に背中を押され起ったことを喜びにかえたいと思います!

 私達は、決して孤立していないし、弱いものではない…小さいが必ず何かが出来る!そういった、信念の積み重ねが私達のステージをあげてきました。
 そして、その事が認められつつあるよう…
 果たしてそれが、全青協として“実力”が備わったと見るか…?もしそうなら、それに自信を持ち、堂々と責務に適うトレーニングをやっていかなくてはなりません。
仮にそうでなかったとするならば、その負託に応える人材を私達の手で、育まなければならないでしょう…
 “責任ある政策提言”を行う集団として“次代の担い手を創生する”役割を有していることを確信し、多くの出会いが、明日の農業を創革する力になることを信じます。

決して弛むことのない、決して臆することのない、決して挫けることのない私達の挑戦は、まだはじまったばかりです!

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