《続・新風青嵐の放談コラム》生命躍動の5月号

土根にはえ、風と生きる

「受話器の向こう…」

 とりようによっては、オカルトチックな表題…、はたまた、メール事件(前々号参照)の続編…?
 どちらも、不正解。今月号も、どちらかというとどうでもいい話です。

【立場ある方はご用心下さいませ】
 4月某日、馬鈴薯の植え付け作業も先が見えてきた昼休み、突然自宅の電話が鳴りました。
 以下、そのやりとりの一部始終です。(注:※は私の心の声)

相手:『もしもし、ひらさんですか?平 和男さんですか?』
私:『はい、そうですが…』
イントネーションからして関西のおっちゃん風やな。

相手:『全国農協青年組織協議会、副会長の平さんですか?』
私:『はい、そうです。』
相手:『あー私ね、全国○×同盟の○×という者ですが、よろしいですか。』
私:『なんでしょうか…。』
○×のところがよう聞き取れんなぁ。なんやろー。

相手:『あのねー私どものは“北方領土の返還運動”しよるんですわ。』
私:『はぁー』
あー、“ウ×ク”とか、そういう人たちかいな…っていうか、なんでそんな人が自宅の電話番号を知っているんやろか?

相手:『その返還運動が今年60周年を迎えまして、その記念行事にご案内をさせていただこうかと思うとりますぅ。』
私:『はぁー』
迷惑な話やなぁー!どないしよう…

相手:『ついては、もしもし』
私:『はい、はい』
相手:『それらの件について直接お会いしてお話を聞いていただきたいんですが、どうですやろか?』
私:『ど、ど、どこでですか?』
ちょっと、動揺。

相手:『あー、今私どもね、清水町(新得の隣町)のホテルに宿泊してご近所によらしてもろうってますので、時間の空いているときにご自宅まで伺おうと思っておるんですわー』
私:『い、い、いつですか?』
相手:『あす、どうですか、少しの時間でいいんですわー』
あかん、あかん、いいわけないやんかー

私:『あのー、私農業をしておりまして、』
相手:『はい、はい。』
私:『この春の遅れで播きつけ作業が忙しくて、畑から帰ってくる時間は約束できませんが…』
相手:『あー、そりゃ御苦労なこってすわなー。分かりました。お忙しいようなので電話で申し訳ないんですが…、実はお願いがあるんですわ。』
私:『何でしょう?』
相手:『もう、はっきり言うますと、その返還運動60周年の記念誌を刊行しまして、それを是非一冊、買ってくれたらと思うとる次第なんですわ。』
でた、きた、そういうことねー

私:『ちなみにおいくらなんですか?』
相手:『おかげさんで、そりゃありっぱな記念誌になりましてね、47,500円なんですわ。』
私:『!、!、!、た、た、高いですね。』
相手:『何とかお願いしますわー』
私:『いえ、いりません。高くて無理です。』
こう言うときは、間髪入れず断るのがベストなんや。

相手:『何言うとりますのん…。何十ヘクタールも土地持っててー』(ちょっと凄んできた!)
私:『そんな考え違いをしたらいけませんよ。農地は私個人の財産ですけど、国民の食料を生産しているものなんですよ。いわば、お国のものです!』(負けずに語気強く)
相手:『はい、はい、わかりまし…』ブチッ!(電話が切れる音)
なんやのー!ええかげんんいしてほしいわ…。

…と、イヤな想いをしてしまい、ことの顛末を家内に話すと、
『あんた、馬鹿ね!○×農協(十勝管内)みたいに嫌がらせされたらどうするの!』と叱られてしまいました。
 もう何年も前ですが、○×農協の車(普通車)がウ×クの、あの“街宣車”を追い越したことにイチャモンをつけて、農協事務所前に陣取り街宣車が連日の凱旋活動をされた迷惑行動のことを言っているのです。

 さすがに、我が家ではそれはないなぁー、と思っていたのですが、
『もっと上手く断らくちゃダメじゃないの!』と、叱責され
『さて、この場合どういう断り方が有効で、かつ新得のタイラさんらしいか…』を馬鈴薯を植え付けながら思案しました。

【トラウマ】
 実は、以前にそんな電話対応で、とてもイヤな想いをしているから、変な時間帯にかかってくる自宅の電話の受話器を取るのはすごく億劫なのです。
 ある時期、イタズラ電話や、嫌がらせ電話や変な勧誘電話がしょっちゅうかかってきたので、家族中ピリピリしていました。
(父がJAの常勤の役員をしていた頃。父が引退してからそんなことが無くなった。)
 思い出したついでに、以下、そのやりとりの一部始終です。(注:※は私の心の声)

相手:『もしもし、タイラ様のお宅ですか。』(ビジネスマン風の男性の声)
私:『いえ、違います。ヒラですが…』
相手:『失礼しました。平様のご主人はいらっしゃいますか?』
私:『えー、父ならまだ帰ってきていませんが…』
親父の名前言わないから、アットランダムの変な勧誘の電話だな…

相手:『左様ですか…、何時頃戻られるでしょうか?』
私:『日によって違うので分かりませんが…、どちら様でしょうか?』
相手:『えっ!あー帯広の山本といいますが…』(ちょっと戸惑った感じ)
私:『山本様ですね、どのようなご用件でしょうか?』
相手:『でもご主人いないんでしょう。』(明らかに迷惑そう)
私:『ですから、“父なら”いませんが…、』(俺ならいるけど…)
相手:『うるせぇよ、このタコ!』ブチッ!(電話が切れる音)
なっ!、なっ!、なっ!タコはテメーだ!

 家人は大笑いでしたが、電話帳で調べて帯広中の山本さんに片っ端から
『おまえこそ、タコだ!』
ってかけて、ブチッ!ときってやろうかと想いました。ちなみにこれ以降、『タイラさんですか?』とかかってきたら『いえ違います!』といって、切ることにしています。

【出会いの妙】
 受話器の向こうだと、相手の表情や動作が見えないからそれはそれでよいこともあるのですが、知らない人だと何か魂胆があるのではないかと、まず、疑うことから入らなければならないのがつらいです。性善説を貫くほど気持ちも強くはないし…

 ただ、こんな商売だから野菜のオーダーやお客様の受入の電話を対応するときはそういうわけにはいかないから、特に声の表情は大切だと思うのです。

 ある時、『商品が届かない。』と言うクレームがきました。ちょっとした行き違いでしたが、この時に学んだことは大きかったです。

 ある本に、『一人のクレーマーの後に11.7倍のクレーマー予備軍がいて、その内の87%が“サイレントクレーマー”になる。』と書いてあった。つまり、10人からクレームがあったら、潜在的に不満を持っている顧客は117人で、そのうち約102人がサイレントクレーマー、つまり、もうその商品(お店)を利用しない、顧客から消えていくことになるというのです。
 逆に、『良かったよ!美味しかったよ!』と言う情報の波及性は、3倍程度だというから、事業者にしてみたら、悪い情報や、噂の方が広がりやすく影響されやすいと言えるので、“いかによい商品を提供する”か、よりは“いかにクレームを出さないか”、あるいは“だしたとしても、いかにケアするか”は顧客管理の命題。特に大事なのが対応するときの言葉遣いだったり、声の表情だったりすることを痛感します。

 昨年、鹿児島のお得様から、
『美味しいジャガイモありがとう!当方にも“いも”があるので送るから是非食べてみて!』
〜と、何種類かの変わったサツマイモが送られてきました。
 サツマイモの美味しさにも驚きましたが、なんとその包装箱が、全青協で一緒に頑張った京都の長村理事の農園の段ボールでした。
 長村さんに話すと鹿児島のお得意さんらしく、何か変わった縁で繋がったことに、まさに“出会いの妙”とはこのことだと思いました。
 昨年、おかげさまで当農園の野菜達は『美味しかったよ!』の讃辞を沢山いただき、『またお願いします。』のオーダーもちらほらと電話でかかってくる季節になってきました。
 受話器の向こうを想像して、少しのトラウマと闘いながらお客様の食卓の笑顔を想像してみるのです。

 そう言えば、出会いの妙は商売に関係するもののみではなくて、普段のコミュニケーションにも言えることだと、あらためて自身の言動を振り返ってみます。

 緑萌える季節は、反省ばかりです…

平成18年5月20日

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