《続・新風青嵐の放談コラム》夏を総決算の8月号

土根にはえ、風と生きる

「みんな大好きだぁー!」

【雲は湧き、光溢れて…】
 8月20日/駒苫vs早実。甲子園決勝…!
 この夏も、ドラマチックに随分と楽しませてもらった高校野球もこれが最後かと、息詰まる投手戦になりそうな前半戦のテレビ観戦を中断し、後ろ髪引かれる思いで札幌に向かうJRに駆け込みました。
 この日は、今年もお世話になることになったオルトラン隊の結団式に『受入農家を代表して学生達に激励を…』のオファーをいただき、歴史的瞬間に立ち会えるかもしれない期待を胸に、約2ヶ月ぶりのネクタイをしめた札幌出張です。

 一昨年、駒苫初優勝のその日…
 道青協は十勝は音更町の家畜共振会場で食と農を語るフォーラムイベントを開催していました。
 司会の巻山さんが札幌に帰るオオゾラの中で『ただいま、優勝いたしました!』と車内放送が流れて、興奮と感動を多くの乗客や道民と分かちあったことを後日談として、“オハホカ”で披露していたけど…
 …もしかして今回も…と、ドキドキの新得からの西走です。

 その日は日曜だったので、しかも青年部関係の出張ではなかったから『もし、優勝したら…』を考え、やはり道民のひとりとして、また昨今言われている農業構造改革議論の中でいわゆる野球理論を仕掛けた当事者として、例え少人数でも盛大な“祝賀会”をすることがその責務を果たすことになるのでは?(←おおげさだよ!)と思い、オルトラン隊結団式の後段、旧友を誘って共に北の大地から勝利の雄叫びをー!…と、上手いビールをメタボリックするつもりでいたのです。
(正しくはメタボリック症候群。アルコール・カロリーの慢性過多による肥満傾向、もしくは肥満体型のこと。外見上お腹がタル状に…)
 ところが、なんと延長引き分け再試合という、まさに高校野球史に遺る闘いがJRの移動中、展開されていたのです。
 タイミング的に札幌駅は万歳バンザイ!の声が止まず、号外が配られ、TVカメラが入るかも…を想定していたので“祝賀会”を急遽“前勝祝い”と称して熱い暑い夏を語り合った次第…

【尽きない野球理論】
 そんな時期の出張でしたから、挨拶や話題提供の内容に“野球ネタ”は欠かせませんでした。なかば現役から離れて、かえって肩の力が抜けていい球が投げられるかもしれない…と、思っているのは本人だけかもしれないですが、“野球理論”をあらためて整理してみることにします。

『たとえ負けマケでも一生懸命プレイしている姿にファンは拍手を送るのだ!』
 H15年7月に皆川課長(当時)が現地視察をされた時のエピソードは、前号で紹介しましたが当時、野球少年団に傾倒していたこともあり懇親会の席で野球少年のひたむきさをサカナにこの話題で盛り上がりました。

 長男が入団する前は練習試合で1回を終了した時点で“30対0”。
 相手チームの監督に
「まだやりますか?」
〜の負けマケチームでしたが、親や仲間は声援を送ることを止めませんでした。
 なぜなら下手くそでも彼らは一所懸命だったからです。

 H14年、4年生の長男が入団して6年生とのレギュラー争いに目の色を変えて彼は…、彼らはトレーニングに没頭しました。
 地区予選で優勝し全十勝大会まで出場できるまで強くなりました。野球少年の伸びシロの大きさに、親も監督も感嘆しのです。6年生の親御さん達は一試合ごとに感動と歓喜の涙でポロポロ…チームも応援団もひとつでした。

 思い入れの大きな野球少年団のエピソードから、プレイヤーは生産者、ファン(応援団)は国民…こう置き換えることで野球議論はスタートしたのです。

『プロ農業経営』
 H16年の「(新)食料・農業・農村基本計画審議会企画部会」で、担い手の定義として農水省がイメージした“仕掛け”が『プロ農業経営・プロ農業者』。
 これには府県の委員から猛反発をくらい、経営所得安定対策の具体的な議論についてフリーズしてしまうことになります。農水省もさすがに尖りすぎたと思ったのか、これ以降このフレーズは意図的に使うことはなくなりました。
 ちなみに当時の企画部会委員(25名)の中で本道関係者は西山留萌支庁長(現農政部長)ただひとりで、色々な意味でずいぶんご苦労されていたようです。

 H15年7月に品目横断発祥の地(←だから、おおげさだよ!)で皆川課長視察団にこんな説明をしました。
「このビート畑は150間(270m)の畦の長さがあります。もし、私が会議で札幌や東京に出かけてばかりいて、満足な管理作業が出来なかったら雑草だらけになります。仮にそうなったら、妻と父と母と研修生で這いつくばって草取りをしなくてはいけません。行って帰ってきたらお昼になってしまいます。でも、私を含めて今、そんなことをさせている農家はいません。そして、これがプロの仕事です。」

 『プロ農業経営』を言わしめている伏線には、こんな現場の声の蓄積があるのです。

『アウトになれば怒られればいいし、セーフになれば喜んでもらえればいい』
 H16年の早春、全青協の基本政策検討委員会でも孤軍奮闘の中、企画部会の産業政策議論もフリーズしてしまった時期に、“月刊JA”から、今いまの政策議論に思うことを書いていただきたいと、編集者からオファーがありました。

なかなかキーボードが弾かれず刻一刻と締切が迫る中で、甜菜育苗土の“土とおし”を中断して見入ったのが、北海道においてプロ野球元年のメモリアルゲームとなったファイターズvsスワローズのオープン戦(札幌ドーム)です。

 先取点をもぎ取った新庄選手が、ヒーローインタビューで語ったのがこの一言。
 セカンドからの好走塁に本塁上交錯プレイになりましたが、本拠地北海道のファンのために先取点は…!という、勢いと想いのこもった価値あるプレイではなかったでしょうか?
 コーチや監督に怒られてもそれは自分の責任で判断したプレイだから…というフレーズも泣かせました。まさに、プロフェッショナルとはかくあるべき!を言い当てた名言であると思います。
 依頼された原稿は、このことをベースに農業構造改革とは真に国民に支持されるもでなくてはならず、生産者の汗が正当公正に評価される制度改変でなくてはならない…と、まとめました。

 ちなみにある企画部会員の
『プロは放っておいても、自分で喰っていける連中でそんな者達に国の助成などいらない。政治的弱者をケアするのが行政の仕事ではないか!』
という主張に対して、
『農業者はプロプレイヤー、ファンは国民、そして球団は国である。プロのしびれるプレイを見たいからファンは球場に足を運ぶし、球団はそれをもってして球団経営をしている。そして球団はプレイヤーの価値をギャランティーというかたちで評価し、支払っているのだ。』
と、プロ野球議論を展開していきました。
 特にお父さん達は総じて野球好きなので、この路線はたいへんウケが良く理解度も高かいようでした。

 前述のオルトラン隊の結団式で、駒苫の再試合の野球ネタからふって、
『皆さんが明日からお世話になる受入農家は、形態こそ多様ですが、まさにそう言った“プロ農家”であることを躰で感じて欲しい。』
〜と激励し、司会を務めたお人形さんの様なHBCアナウンサーの森さんに夕食会の幕間で
『ホントに、おっしゃるとおりですね!』
と、話しかけられて彼女の瞳をハートマークに変えてしまいました。(←勘違い野郎 注1)暑い夏を熱いハートで語るとき、野球議論はファンの心をしびれさせることが出来るのである。

注1『勘違い野郎』
 自分的に満足いくような仕事をしたときに、特に対外的にアピール度が高かったりすると周りの女性(とは限らないけど…)を引きつけて止まないものがあるようです。
 …と、自分勝手にいいように解釈できる輩を“勘違い野郎”という。
『やっぱり、あの娘。オレに気があるんじゃないか?』と、脈略もなくそう思える少々癖のあるお兄さんやお父さん達の総称。
 H15年道青協副会長時に空知地区大会にお邪魔したが、その時の基調講演のプロ野球解説者、栗山英樹氏の講演からのフレーズ。栗山氏によれば、長島茂雄氏などはこの典型であるというます。プロプレイヤーで大成する者はこれぐらいポジティブでなければならない、という解析でありました。

『新庄選手の年棒を決めるテーブルで野球少年団の振興策を議論してはいけない』
 混同されがちな、産業振興施策と農村施策をしっかり整理して議論しなくてはならないー、との主張を野球議論に置き換えたオリジナル表現。
 例えば、企画部会で議論された主要3課題の内、“品目横断”については施策対象者を絞り込むものでしたから、委員からは
『農業が生き残っても、農村が枯れてしまう』
などの意見が相次ぎ、産業施策の議論の入り口から脱線してしまいました。

 本道農業においては主業農家形態が多いことから、産業施策をもって、農村振興が適う図式を野球理論から主張し、政策議論を再動するきっかけを作ったと評価されています。

 ただし、『プロ野球と、野球少年団を一緒にするな。』と、誤解されてはいけないので注釈を入れておきます。
 スポーツ少年団はプロスポーツを底辺から支えていく貴重な原資。トッププレイヤーを育成する最も原初的な土壌です。
 もちろん全ての人がトッププレイヤーになれるわけではありませんが、世界のトップアスリート達だってスピードスケート少年団や、スキージャンプ少年団のOB、OGであることは広く認識されていることで、結果、社会体育振興の意義は大きなものであることは良く理解できるのではないでしょうかー
 したがって、『明日の練習試合の送り向かいを誰がやる?』といった少年団振興を軽んじて良いということでは決してなく、あくまでも −“議論のテーブルは別であるべきだ”− との主張です。

 自身も、現在剣道スポーツ少年団の後援会長と認定指導員とスピードスケート少年団の後援会副会長を務めています。ただし、剣道は防具をつけないかわりに脂肪がついてしまいましたが…

『負け組議論ではファンから拍手されない』
 駒苫vs早実。
 もし、雪国のハンディキャップを言い訳にして負け犬根性から脱していなかったら、こんな目線で彼等達を応援することはなかったと思います。
 『やれば出来るは魔法の合い言葉』(by済美高校校歌)ではないですが自身も、中原マジックにかかってここまで来てしまいました。

 その中原氏(H15年度第26代道青協会長)つながりで、東京で元全青協会長の森本氏と企画部会の感度についてレクチャーを受けたのがH16年3月。産業施策で取りこぼされる農村の疲弊感は全国に共通するものとして整理しましたが、
『「みんながみんな、北海道農業のようになれる訳ではない。」をベースにした、“負け組”の議論では構造改革は進捗しないだろなぁー』との感想を受けました。
 自身の野球理論では、
『その議論を見ているファンはどう思うのか?ゲームの前から“どうせ勝てないから”みたいなダラダラした練習をされては、ファンは絶対拍手しないし声援を送らない!』
まずは、プロらしいプレイをしているか?ということです。

『北海道畑作は日本農業の5番バッター』
 企画部会H16年4月の有識者のヒアリングで、色々な野球理論を展開していきましたがヒアリングの最後に秋岡委員(背が高くて格好いい女性委員、最近自身はそういうフェチであることが判明)から
『では、平さんの言葉で“プロ”とは何か、100文字で答えて下さい。』
といわれ、仕込んでおいたネタを使い、こう答えました。

『タフであること、センスがあること、努力と工夫が出来ること。そういったトレーニングをしっかりやっている者達。』
であり、
『北海道の畑作農家の視点から言えば、より緊張感のある競争から産地を鍛え、実需者により愛されるもの、より求められるものを供給してきた生産責任を果たしてきた、または果たしうる産地、生産者。』
であり、 『そういう意味からして、北海道畑作は日本農業のクリーンナップ、5番バッターです。ホームランを打っても派手にガッツポーズしない連中です…!』

 この最後の部分は、生産環境が向上する中で北海道畑作の政策環境だけが、置いてきぼりを喰ってますよー、を揶揄したもので、また内向的には“やるべき事をやっているのに、出るべき処に出て言うべき事を言っていない”農業者自身の課題を提起したものでもあります。
 わかる人にはわかる話でしたから、特に農水省の審議官達や北海道関係者には大うけでした。

『4番バッターばかりのチームじゃだめ』
 H16年7月、全国代表者集会、東京九段下。前日大手町は39.5度。
その集会で生産者を代表し、意見表明を行った中の野球理論的主張。少しパタパタしましたが、前段、ネタを仕込み中に農業新聞の農政対談で民主党の某代議士(シャドーキャビーなネクスト農水大臣)が
『4番バッターばかりのチームじゃだめ。選手層も厚くし、補欠や2軍のプレイヤーを育てることも重要だ。』
と記事が掲載されて少なからず動揺しました。
 『4番バッターばかりの…』のオリジナルは企画部会での自身の野球理論から。

 当時、某在京の人気球団は、4番バッターばかりのチームを作りましたが、成績は今ひとつ…それを受けてオリジナルはこう展開します。
『足の速い一番バッターの、送りバントの上手い二番バッターの、ホームランを打っても派手にガッツポーズしない五番バッターの、評価とギャランティーは違って当然。ようは、そういった者達のお互いの長所を伸ばすことが出来る制度改革であるべき。』

 意見表明のこの主張は一時期“北海道バッシング”に傾きかけた政策議論を、本流に戻した貴重な主張であると、ある方に誉めていただいたことがあります。
 意見表明中、隣に座った全中宮田会長は大きく、うん!うん!とうなずくのを視界の端に見て、憮然とする府県の与党の先生達を尻目に大汗と躰の震えが止まらないでいたことを今も忘れません。

『良質な好敵手』
“道青協用語集”(H17コラム10月号)では、
『H16年度策定の全青協綱領解釈文、同年のJA青年大会の宣言文、いずれもリライトされてしまった文言。もちろん“青年部=仲良しクラブ”ではないけど、聞く人が聞くとかなり過激な表現らしい。ちなみに好敵手は『ライバル』と呼ばせる。例えば、星君と花形君の関係。』
 レギュラーポジションを争うチーム内競争は、応援している方も適度な緊張感があって、少年野球といえそこに大きなテーマとドラマ性を感じずにはいられません。

 ちなみに星君はこうも言っています。
『男を成長させるのは優しい友より強いライバル』
−仲間は同時に良質な好敵手−
 青年部の盟友間の関係はかくありたい。そして、その土台の上に産地は創られると思うのですが…

【栄冠は君に輝く】
 決勝再試合の日、道青協は全菓連青年部の皆さんを十勝川温泉に迎えての現地視察研修、意見交換会を開催しましたが、敗戦の結果を意見交換中のメモ回覧で知ることとなりました。
 手強い相手であることは間違いないが、なんとか勝てるだろうとユルユルになっていたせいか、はたまた前日のススキノ前勝祝いが悪かったのか…、もちろん素晴らしい準優勝であることは違いないですが、自分的に想定外でしたから端から見ていても分かるぐらい相当落ち込んでしまいました。

 ただ、このカード、何年か前の甲子園だったらおそらく北海道の野球関係者のみならず、道民のほとんどは「あ〜ぁ…」とため息をついていたのではないでしょうか?
 ここ数年の高校球児のレベルアップはすさまじいし、道民の目も肥えてきました。何より、負け犬根性が払拭されたことは大きい!やれば出来るのだ…!を、多くの道民に移植した功績は計り知れません。

 夢と勇気と感動をもらったこの夏の栄冠はただひたむきに白球を追い続けた汗と同様、駒苫球児に輝けるのだと、あらためてその健闘を讃えましょう。

 しかし、道庁前庭での
「みんな大好きだぁー!」
には、彼等の若さへの嫉妬を覚えてしまいました。
 それだけ、煌くものが失われてきているということでしょうかー、9月にはいると同時にまた一つ歳を重ねることになります…

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