《続・新風青嵐の放談コラム》増刊:想秋号

土根にはえ、風と生きる

「AFCフォーラム・農政改革 いま現場では」

【Yokoso、農林金融公庫広報誌の取材スタッフの皆さん】
 はじめまして、道青協参与をつとめております平です。
 今日は遠いところわざわざおいでいただいてご苦労さまでした。ことによると、この特集記事のシリーズの中で東京から一番遠い取材地だったのではないですか?お疲れでしたね…どうぞおかけください。

 早速なんですが、私、平成16、17年度と道青協の会長をつとめておりまして、併せて昨年度は全青協の副会長をしておりましたので随分と東京・中央には出させていただきましたから、思うほど遠い感じはしませんが、そうでない方達、例えば今日来られた皆さんや一般の生産者には、北海道は、あるいは東京は物理的な意味以上に遠いものと思われているのではないでしょうか?
 結果的に、霞ヶ関や大手町や永田町での政策議論と、現場との温度差、感度の違いはその物理的な距離と比例して、しかもどういう訳か途中でねじくれてしまい正しくお繋ぎされていないことが多いように思うのは、今いま議論されている政策転換の注目されている北海道畑作農家の担い手として、ある時はその会議室の最前列にいて、またある時は向かい合う雛壇に座りお話を聞いたりさせていただく当事者として強く実感することです。

 もちろん、この十勝や北海道内でもそれぞれの想いがありますが、今年は道青協の参与と言う立場で少し肩の力を抜いてそういった議論の輪の中に入る機会があり、我々との対象軸である府県の稲作、転作農家や兼業農家の皆さんには非常に多くのフラストレーションが鬱積しているのだろうなぁ、と想像しているところに今回のオファーがあったと言うわけです。

【朝日がサンサンおはようさん】
 聞くと村田さんの推薦で…と、言うことでしたが、朝日新聞の村田さんには平成16年、当時「新・食料、農業、農村基本計画」審議会企画部会員として、当農園にも2回ほど取材に来られたりしましたが、その年の4月に私がその企画部会に北海道畑作農家の担い手を代表しての有識者ヒアリングに選任を受けまして、いわゆる『野球議論』であるとか『小学生でもわかる北海道畑作のなぜなぜ問答』を仕掛けていったのです。

 その中で例えば、私の発言の
「駄農を生み出さない制度改革であるべき…」
だとか、
「甘えの百姓根性からは何も創生されない…」
とかの主張に対して、
「農業者自身から発した過激な言葉である。」とレスポンス良く反応されて 「是非取材させて下さい。」
「いいですよ。」
となって、朝日新聞夕刊に特集記事で紹介されることになりました。

 村田さんがこちらにこられたとき、北海道、十勝の畑作生産環境を余すことなくお伝えしました。例えば
「国産小麦の約3割がメイドin十勝の小麦ですが、しかし十勝には純粋な小麦農家はいません。
 その小麦農家は同時に豆農家であり、馬鈴薯農家であり、甜菜農家であり、野菜農家なのです。それを可能にしている農法が輪作なのです。
 そして、それら原料型作物を生産する農家や産地が直面する国際規律の強化に対応するために“品目横断”という制度設計の仕掛けが必要なのです。
 ちなみに、小麦以外の国内占有率は小豆、馬鈴薯で30%、甜菜は45%、インゲン豆は80%です。それらを生産している農家戸数はどれくらいか想像できますか?4000戸に満たないのですよ。国内の主業農家のわずか1%です。
 つまり、日本人は気にかけないか知らないと言うだけで、メイドin北海道、メイドin十勝、メイドin北見の原料型作物を食べていると言うことです。」
 さらに、
「省みて、あの企画部会員の皆さんはあの会議室のテーブルで一体何を議論しているのでしょうか?
 食料、農業、農村の基本計画と言うからには、日本の食料の将来のこと、農業の将来のことですよね?そういう方達が現状で言うわが国の食料基地北海道、その中にあってさらに農業王国と言われる十勝農業の生産環境を知らない、あるいは見たことがないという中で議論が進むのだとしたら非常に恐いですよ。
 だって、それって自分の家の食料庫や冷蔵庫に何が入っているのか知らないで朝っぱらから今晩の献立は何にしようかと悩んでるようで、私達現場の人間から見たらナンセンスです。」
と、主張したのです。

 このことがあってから、随分当地の現地ヒアリングが増えて、我々担い手と言われている農協青年部は多方面にわたり自身を鍛えていく機会を得ることが出来たことは、私達にとっても自己発信の大きなチャンスになりました。
 ちなみにその年の8月。基本計画の中間論点が整理され、当初主要3課題と言われていたものを、「経営所得安定対策」「環境向上支援」「農地制度改革」「担い手育成」の4柱にまとめて、中間論点の整理に特に汗をかかれたと言われている企画部会員である経団連の立花専務や村田さんらが当農園を視察され、「わが国にこんな生産環境があったとは…」を言わしめて、政策議論の加速度をさらに増すものとなったのです。

 こんなことをご存知の村田さんですので、村田さんからのオファーと聞いて
『これは何かあるなぁ…』
と、警戒していたところに事前に座談会などの資料が送付されてきまして、
『なるほどなぁ、この書きようと言いようでは北海道十勝の平は黙っていないだろうから、何か言わせてみたら…』
の様な企てではなかったかと…
それは深読みのしすぎでしたね。失礼いたしました。

【経営政策大綱のあの2行】
 かなり、フランキーなものの言い方になるのでライターさんはたいへんでしょうが上手いことまとめて下さい。

 まず、今いまの農政改革を議論し評価する上で、どうしてもピン留めしておかなくてはならない政策議論があります。

 それは、平成13年8月に農水省が策定した『農業構造改革推進のための経営政策』いわゆる経営政策大綱です。この大綱は優先度の高い重点政策は担い手に特化、集積するとうたっているのですが、護送船団方式的農業政策から決別するとの考え方に国はいよいよ本気モードになってきたな…、と言う印象を受けました。つまり、国民からのバラまき農政批判を抜本から見直す構造改革の指針を経営所得政策を切り口に内外に知らしめたことはある意味しかもこの時期画期的なことだったのです。
 ちなみに、この大綱はその年の3月、旧食料、農業、農村基本計画が策定されている平成12年度内に主要都市の現地ヒアリングを皮切りに、JAグループ、関係団体の組織討議を経てまとめられたもので我々農協青年部もこの議論に参加しました。私が十勝地区農協青年部協議会の会長をしていた時のことです。

 さらに、この大綱の最も注目すべきはいわゆる経営所得安定対策を導入されるべき経営体とは?を、優先順位の観点から
『日本農業の中核を成す一方で、他方構造改革が遅れている稲作経営体』

『輪作体系を基とする大規模畑作経営』
と整理したことです。

 我々は今もってこの二行の意味する部分が担保されていると思っていますし、確かに多少古い証文ではありますが責任と見識のある農業者であれば、
「あー、そういえばそんなのあったなぁ。」
と、思い出されるでしょうし、もし
「知らない…。」
と言うのであれば見えてくるものも、見えないのではないかと思います。

 この点からいって、こと品目横断対策は『輪作体系を基とする大規模畑作経営』つまり北海道畑作対策であり、その対象品目においても“輪作体系を基とする”とあるので、我々が言うところの“畑作四品”つまりは原料型作物が対象となったことは至極当然のことであるわけです。
 この大綱の翌年『新たな米政策大綱』がまとまり米改革がスタートしましたが、その次は我々畑作なんだとお行儀良く順番を待っていたところに、やれ「本作化する転作大豆、転作小麦」はどうするんだと横はいりされ、主役そっちのけで脇役が騒いでいる…といったところが私の正直な印象です。
 ちょっと過激な表現で申し訳ないのですが、あくまで“品目横断対策”に限ってですが、土地利用型作物の経営政策の有りようについて議論するとき、府県の方や稲作転作農家の方から
「結局北海道対策なんでしょ…」
とか、
「品目横断と言いながら品目が限定されているのは矛盾している。」
との指摘は全くもって的はずれであり、府県の皆さんから見て津軽海峡から北の大きな離島はその物理的距離以上に遠いのだろうなぁーと、今更ながら実感するのですが…、果たしてそれは仕方のないことでしょうか?

 ちなみに、この組織討議にかかり十勝地区農協青年部がまとめた主張は以下の3点です。
『中、長期的に経営の安定に資する政策であるべき』
『確固たる政策ビジョンが多くの国民に支持されるものであること』
『より経営努力より営農努力した者がより報われるべき制度でなければならない』
 当然と言えば当然ですが、なぜこのことを整理したかを後ほど解析したいと思います。

【農政改革をプロ農家として正しく見るキーワード】
 前置きが長くなって恐縮ですが、この農政改革をどう評価するかはまさに見るべき目をもって見る必要があると思いますが、そのキーワードは三つあると考えています。

 ひとつは、産地の在り方としてどう取り組んできたか、そしてどう取り組んでいくかと言うことです。
 北海道畑作は『北海道農協畑作・青果対策本部委員会』で定められたルールにそって“指標面積”が示されそれに基づいて各地区、各単協、各生産者が実需者のニーズに応える計画生産を行ってきました。産地の果たしうる生産責任、供給責任は底辺にいる生産者のまさに生産意欲に底支えされて、またそれを喚起することで結果的に消費者、生活者、国民の負託に応えてきたのです。

 もちろん、この十勝にも反収の低い生産者はいますが、だからといって交付金が従来通りもらえないからといって、耕作を休止する、あるいは代替えの作物を作付けするなんてことはよほどレアなケースでなければ起こり得ません。
 安定的に持続生産するという産地に課せた生産責任を果たすことが私達にとっての“産業使命”であるとの自覚からです。
 ただし、その自覚はそうせざるを得なかったという結果的な要素もあり、表現は適当ではないかもしれませんが弱者が淘汰され残るものが残るべくして現在の形になったことを否定しません。
 そういった、緊張感のある生産者、産地間の競争を実践してきた証が、まさに北海道農業、北海道畑作の生産環境をここまでしてきたのです。
 この“産地”として取り組むべき方向性を見失ったり、そのビジョンを明確に出来ない場合、この構造改革は迷走してしまうと思います。

 ふたつ目は、その産地、あるいは生産者の“プロ度”を公正、公平に評価すると言うことです。
 たとえば、モラルハザードを生み出してきた環境は平等原理を誤った解釈により導入したことに起因します。結果、農業者の自立と自律は遠のき、転作奨励金あるいは産地作り交付金は安穏とする捨作農家の目を覚醒しないまま、バラまき農政の批判を甘んじて受けなければならない状況をつくってしまいました。
 戦後農政は全ての人を良くしようとしてほとんどの人を駄目にしてしまった、と総括される部分の元凶がまさにそれです。
 『より経営努力より営農努力した者がより報われるべき制度でなければならない』を言わしめている根幹は、転作農家が言うところの本作農家が今まで正しく公平に政策制度上、評価されてきたのか?のアンチテーゼです。

 良い物を安定的に作ってきた生産者の評価はこの制度設計の中でしっかり担保されることが第一義的なことであり、過去実績が低いから今まで通りに作れない、だから米を作る、結果生産調整が崩壊する、米価の値崩れがおきる、…をどうするかの議論は少なくとも経営所得安定対策とは別なテーブルであるべきですし、そもそも過去実績をしっかり確保している生産者が公平原則によって評価されることをまず先に整理する必要があります。
 「本作化する転作小麦、転作大豆…」と言う表現も、今まで“本気”で作ってこなかった負荷を国民に与えていたその当事者が、自らの病巣を理解し自覚症状を訴えた上での手術でなければ、手術は成功したけれど患者は死んでしまった…、なんてことになりかねません。

 三つ目は、誰のために取り組みどこの何と闘うのか…、と言うことです。
 担い手はプロ農家である…、とするならば、誰のためと言えばそれはファンのため、つまり多くの国民、生活者、消費者、あるいは実需者のために取り組む改革であるべきです。
 さらに、どことといえば特に原料型作物の場合は世界と闘うということでしょう。もちろん勝つことは出来ませんが、それでも闘う前から負け組議論では駄目です。たとえ負けマケでも流さなければならない汗があるし、そこにファンは拍手や声援を送ると思うのです。
 そういった意味から、例えば米を品目横断の対象品目にするためにということで、今凍結しているWTO交渉のG10、EU案をベースに米価を想定し、関税収入をその原資に充当すれば…、という理論武装を稲作農家自身が発信してきたことはある意味画期的なことです。
 もし、5年前同じことを畑作農家の私が主張していたならばおそらく会議室の灰皿が飛び交っていたことでしょう…

 北海道畑作はその歴史的背景からいって技術移入をEUや新大陸農業に求めてきました。そして我々生産者の努力の結果、今やその生産水準、営農水準は世界の平均を大きくこえており、品目によってはトップクラスの物もあります。
 ただ、ひとつ政策環境のみが取り残された印象がありますが、そういった視点からもEUの農業共通政策(CAP)などに学ぶところは非常に多く、EUの農業の先進性を表していることは広く認識されていることではないでしょうか。

 そのCAPは例えば1960年代の導入時において加盟6カ国の内(フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、ベルギー、オランダ)比較的国土が狭く農地という農業資源が相対的に乏しかったルクセンブルク、ベルギー、オランダは“小規模、零細農家の離農促進”と言う手法で構造改革を推進し多くの国民のコンセンサスを得て税金投入という形で農業理解を図っていったと言われています。

 わが国の農業構造改革を語るとき、はたして“南風の零細農家の離農促進”が有効に働くかどうかは議論の余地を持つところではありますが、いずれにしても北海道畑作を良くしようと思うのだったら米政策の勉強をしなくてはならないと言われてきましたし、同時に日本農業を、米政策をどうにかしようと思うのだったら、EUの共通政策など世界の先進政策を学ばなければいけません。
 現場の特に責任ある生産者はこのことを語るだけの見識を身につけ、当事者としてこの改革を強力に推進する意欲が必要であると思います。

【経営所得安定対策の評価】
 では、本題の経営所得安定対策の評価についてですが、結論から言うと大満足ではありませんが評価はしているということです。
 それは、H15年7月、この議論をプロダクトする農水省の企画評価課の視察団が当農園を皮切りに十勝、北見の生産環境を見ていきました。現地ヒアリングでは、道青協畑作担当の副会長として現地の担い手をトップリードし、その議論の中心メンバーとして参加しましたが、関係者の間では、“品目横断”のスタートラインといわれている当地当事者の自身にとって、一時は産業振興政策の議論がフリーズし、またあるときは北海道バッシングに傾きかけてきたなかで、よくここまでたどり着いたなぁ…というのが実感です。

 ただ、それはそれとしてやはり制度の磨きが甘く、現場のフラストレーションはかなり大きな物があります。このことについて、昨年12月に帯広市で行われた北海道地域農林水産懇談会や本年4月に同じく帯広市で開催された衆議院農林水産委員会地方公聴会に、生産者を代表して意見表明をさせていただいた部分を中心に、4点についてなぞっていきたいと思います。

 まずひとつが、“担い手の育成”についてです。
 平成16年のJAグループが行った組織討議でも、まず現行の認定農業者制度の運用改善が求められていたところでしたが、現状ではとりあえず申請書を出して下さいというもので現場では大きな不具合が生じていることも、農水省は認識しているはずです。
 果たしてその事が国民の期待を裏切ることにならないだろうか、ということを強く懸念しているわけで、今更、リセットすると言うことにはならないでしょうが認定農業者であれば誰でもよいと言うことではなく、どんな認定農業者であれば良いのかと言うことの真理を見極めないといけません。

 また、担い手の能力を正しく評価するべきという観点で担い手育成を図ることを当然としながらも、現場では特に面積要件でこんな問題が生じることになるよ、と言う事例をひとつあげておきましょう。
 A農家の耕作面積が10haで、面積要件がクリアされたとして、仮に5中3の収量が反当400kgだとします。つまりその生産量は40,000kg。一方、7haの要件未達者、B農家が、5中3で600kg、つまり42,000kgの生産量をあげていたとしたら、B農家の営農技術や経営能力はどの時点で正当に評価されるでしょうか?と言う問題です。
 あらためて誤解の無いようにこのことについて整理しておきますが、小規模農家を何とかしてくれといった意味ではなく、また、大規模ならなんだっていいぞということでもなく、担い手育成の観点からあるべき視点でしっかり評価することが大切ではないか?という主張です。

 ふたつ目が、“生産条件格差是正対策”です。
 H15年度からの北海道農協品目横断的支援検討委員会に担い手の代表として参加させていただき、農水省との意見交換や現地ヒアリングにも参加しました。

 ある審議官は国際規律の強化に対応しうる安定的な制度であるべきとの観点から、いわゆる“緑ゲタ”一本で行うことが望ましいのではないか、と主張しました。
 その意見の背景には
「北海道が一番その面積を作付けしその部分で担っているのだから、結果的に全体の交付金額は北海道に一番多く交付されるでしょう…、だから損はしませんよ。」
〜というものでした。
 しかし、
「それではモラルハザードを生み出してしまう。」
〜と反対したのは、何より北海道畑作主産地の私達で、さらに少なくとも生産意欲を喚起させるという誘導部分として、たとえ100円でも、1000円でも“黄色ゲタ”は必要であることを主張したのです。
 こういったやりとりから、現行のアウトラインが形成されたことを見て、モラルハザードを生み出さず、『努力した者がより報われる』とする公平性を確保したものと考えます。

 また、畑作産地の視点から持続的な発展を目指す産地の在り方として、輪作体系の維持を確立しなくてはならないとの観点から、大豆のみならずいわゆる雑豆対策の必要性を訴えるところです。
 ちなみに、雑豆は輸入加糖餡や種苗法違反など、産地の基礎体力を確実に奪う懸案が山積しているにもかかわらず対策が後手後手になっています。攻めの農業は否定する何ものもないですが、知的財産権の侵害に対してなどデフェンスもしっかりやらなくてはならず、そう言った周辺環境政策の整備が早急に求められるところです。

 三つ目が“収入変動緩和対策”です。
 これについては農業災害補償制度と相殺するとあり、であればその整合性を図る意味で、対象品目においては災害収入PQが導入されていることが前提であると主張してきました。
 また、『損をしないから入りなさい。』のセールスコピーは、自主自立が遅れている農業者に向けたものだったとしても、あまりにもあんまりです。
 そもそもそうならないためのリスクマネジメントが“輪作農法”なのであり、原材料製品の国際価格は総じて米価格のそれと比較し大きく高下することはありませんから、想定するような機能が働くかどうかの懐疑的な部分が払拭できません。
 仮に、国際価格が大きく下落する様な場合であっても、あるいはその逆の場合でも、その部分のリスク管理は生産者の負荷があるとしても先ずは食料行政の責任でプロダクトされることが前提です。
 しかも、基礎体力が低下している経営体には、自己資金の積み立てであってもその絶対額は大きな負担になります。利率の面からも、そのような不測の事態であれば“天災資金”の借入の方が有利と判断する場面が生じてくるかもしれません。

 ですから、どうしてもこのうまい話には“裏”があるのではないかと勘ぐってしまいます。
 例えば、セーフティーネット施策を鳴り物入りで導入したと誘導し、総合的包括的な経営所得安定対策を図ってきたという既定事実をつくって、“黄色ゲタ”を削減するアリバイにしようか…、みたいな生産者にとってハッピーでない顛末が見え隠れしない訳でもありません。

 もちろん、国際規律の強化に対応するためと国際価格により近づけるために“黄色ゲタ”は削減対象になりうるわけですが、少なくとも現行の所得水準を確保する、あるいは拡大再生産に適う持続的に発展する生産環境の実現に必要な所得水準を確保するという部分が明確にかつ具体的に示され担保されない限り、産地や生産者は“黄色ゲタ”を放したがりません。
 それは、生産意欲を喚起する最後の砦仇であり、そのことが我々の産業使命を自覚する土壌を醸成し、世界水準にまで押し上げる生産環境を実現してきたモチベーションを維持する材料となったからです。

 ただ、いずれにしても経営者マインドを醸成する観点からリスクマネジメントの必要性は誰もが認識するところであり、より制度が磨かれることが望まれている事は確かです。

 四つ目が“環境保全向上対策”です。
 当地区は畑地と草地が対象となっていますが、おしなべて農業者の取り組みが評価された結果として支援されるという理論誘導が成されていません。結果としてこの施策対効果がなんなのか?特に、本道畑作、酪農の平場版においてイメージが湧かない、あるいは現場のそういったレッスンを積んでいなかった、ということが言えます。

 特に水田の付帯する周辺資源は例えば人間でいうところの“血管”であり、水というものを介する用水路などのメンテナンスの重要性は認識として多くの方達に共有されています。
 しかし、畑地草地のそれは自己完結しやすいので、例えば、
「補助金なんか貰わなくたって、自分の圃場まわりの草刈りぐらい誰に言われなくてもするのが当たり前だべさ!」
の域を出ません。しかも、
「そんな予算があるんだったら、品目横断の“緑や黄色”にしっかり付けてくれや!」
〜が本音だったりしたので、自らがその議論のテーブルにつき当事者の言うべき意見、やるべき議論をしてきませんでした。
 しかも、本町当地区は全国400箇所のモデル地区のひとつとされていましたが、地方公共団体、行政の財政負担が足かせになって現場の意欲を阻害するものとなってしまったこともあり、関係者の説明会や当事者間の議論など、一層その認識の低さを露呈することになりました。

 今後は例えばグリーンツーリズムなどの仕掛けを底辺に、消費者交流から多くの国民理解をはかるコンテンツを地域で開発し、当該者はそういった農村振興をEUなどの先進事例から学ばなければならないと考えます。
 結局、当事者の意識の高さを醸成することが何よりも優先されるべきであって、『補助金がもらえるからやろうか…』の順番ではいけないと思います。
 この部分はまさに、職業倫理、生産者規範に帰依しますし、いずれ産業振興政策とのクロスコンプライアンスが必要だと考えます。

【頂上決戦の日にプロ農家が想うこと】
 もう、お時間も限られてきましたね。JRのお時間大丈夫ですか?今日、東京に戻られるのですか?もう一泊ススキノに止まって頂いたらファイターズの優勝で、もちろん今日、日本一ですよ!そのススキノでファンの皆さんのビールかけに参加したりしてまさに歴史的瞬間に立ち会えたのに残念ですね…

 そろそろ、最後のまとめですが、野球の話が出たので、今時言われている農政改革議論を“野球理論”で仕掛けていった当事者として、今日の札幌ドーム決戦に特別な想いがあることをお話しておきましょう。

 H16年の2月、私は北海道畑作農家の立場から全青協の基本政策検討委員会に参加し、企画部会の産業政策議論もフリーズしてしまったその時期に、“月刊JA”から、現状の政策議論に思うことを書いていただきたいと、編集者からオファーがありました。

締切が迫る中で、当時甜菜育苗土の“土とおし”を中断して見入ったのが、北海道においてプロ野球元年のメモリアルゲームとなった札幌ドーム開催のファイターズvsスワローズのオープン戦でした。
 先取点をもぎ取った新庄選手が、ヒーローインタビューで
『アウトになれば怒られればいいし、セーフになれば喜んでもらえればいい。』
を聞いて、鳥肌が立ちました。
…セーフになればファンに喜んでもらえればいい…
 セカンドからの好走塁に本塁上交錯プレイとなって、いわゆる暴走ぎみだったのですが本拠地北海道のファンのために先取点は…!という、勢いと想いのこもった価値あるプレイだったと思います。
 コーチや監督に怒られてもそれは自分の責任で判断したプレイだから…というフレーズも内在していると思いました。まさに、プロフェッショナルとはかくあるべき!を言い当てた名言ですよ。

 依頼された原稿は、このことをベースに農業構造改革とは真に国民に支持されるべきで、生産者の汗が正当公正に評価される制度改変でなくてはならない。と、まとめて投稿したのです。
 ちなみにある企画部会員の
『プロは放っておいても、自分で喰っていける連中でそんな者達に国の助成などいらない。政治的弱者をケアするのが行政の仕事ではないか!』
という主張に対して、
『農業者はプロプレイヤー、ファンは国民、そして球団は国である。プロのしびれるプレイを見たいからファンは球場に足を運ぶし、球団はそれをもってして球団経営をしている。そして球団はプレイヤーの価値をギャランティーというかたちで評価し、支払っているのだ。』
と、プロ野球理論を展開しました。
 特にお父さん達は総じて野球好きなので、この路線はたいへんウケが良く理解度も高かったのです。

 結果、この理論は今もっても農政改革議論の底流を流れ、ぶれるものはありませんし、そうあるべきだと思います。
 そして、このことを言わしめたまさにオリジナリターである新庄選手が札幌ドームでプレイする姿は今日が最後なのです。北海道の農業者として北海道の野球ファンとして、もちろん今日優勝してほしいですし、そして、彼の胴上げを目に焼き付けたいと思います。

 ファイターズが本拠地を北海道に移転した年、プロ野球再編が言われて在京の球団の中で目立たなかった日ハムはこの移転がなければ、リストラの一番候補だといわれていました。北海道に来てからも、巨人ファンが圧倒的に多い土地柄で地域球団として根付くのか?という懸念はたいへん強いものでした。
 しかし、選手や球団はその逆境を跳ね返しました。
 札幌駅で選手達がファンにサインをしてあげる光景を幾度となくみて市民球団、道民球団として認知されていることに多くのファンが激励と拍手を送るようになりました。なによりプロとは何か?を植え付けた“新庄効果”は野球ファンを魅了して止みませんでした。
 そして、ファンに愛されることでプレイヤーはより一層高いものを求めファンの声援に応えるプレイをしていったのです。
 そういった成果が今こうして結果となり多くのものに、感動と勇気を与えています。たかが野球ですが素晴らしいことですよね。

 そして、私達もそうあるべきです。
 私達にはファンに愛される資質がないでしょうか?しょぼいでしょうか?
 決してそうではありません。愛され、声援を送られ拍手をされればそれに応える潜在能力を持っているはずです。
『やるべきはやり、出るべき処で、言うべきは言う』をプレイヤーの自己責任として、施策対象責任を全うするだけの最低限の能力を持ち、そのトレーニングをまさに自ら進んでやるレッスンに昇華し怠ることをしません。

 それは、私達のこの土塊と共にある“手”が証明します。その土塊の手は先人達の築いた大地をより豊かなものにより確かなものにと継受し、次代へと継承していきました。土づくりには時間と労力とお金がかかります。想ったような答がすぐに得る事が出来ません。
 しかし、それでも農人は土をつくってきました。愛する家族のため、より求められるもの愛されるものを食卓に提供するためです。
 さらには、それらは一人では適いません。郷土を故郷を愛でる気持ちがあってこそ、その負託に応える産地を形成していったのです。農村が枯れかかる中、郷土愛を育むことは愛するものを支える根幹となるものです。

 来春、地元の農業高校へと進路の準備をしている長男はそんな郷土愛に育まれ、今、聖地札幌ドームに歴史の証人として4万数千の一員として、その瞬間に立ち会おうとしているのです。(う、う、羨ましい…!)

 結局、また野球ネタに戻ってしまいましたね。特に差し支えなければこんな日の邂逅でこんなご縁でしたので、飛行機の中でファイターズの日本一を祈っていて下さい。
 今日はありがとうございました。

AFCフォーラム/1月号掲載予定の取材にて…
取材日2006年10月26日(thu)

Copyright(C) 2007-2008 ひら農園 All rights reserved.

inserted by FC2 system