《新・新風青嵐の放談コラム‘07》山吹青緑の初夏号

森羅の夢に果てるまで

「チモシーの萌える季節に」

【天国への手紙】
 “君”との出会いは運命だったと思う…

 初めて君と出会ったのは夏のはじめだった。
 君には若い彼がいて、とても幸せそうだった、羨ましかったよ…かわいい君がいっそう輝いて見えた。たくさんの人達に愛されて、きらめいていたね。

 でも、君の幸せはそんなに長く続かなかった…
 その冬、彼には年上の彼女が出来て、君は二重生活をしいられることになった。辛かったのだと思う…君の落胆を傍目で見ていて心を痛めていたよ。

 ちょうど、そんな頃だった…
 “僕”は、自分の浮ついていた心を家人にとがめられ、家族の中の居場所を無くしかけていた。抜け出せないアリ地獄に落ちるみたいで自分の立場を悪くしていた…。「銀座のホステスメール事件」なんて、自虐ネタにして皆を笑わしていたけど、本当はぽっかり空いた心の隙間を埋めるのに苦しんでいたんだ…。

 だから、それからの君のことをお世話したのは、たしかに最初は君への、家族への罪滅ぼしのつもりだったのかも知れない。でも、そんな、お互い埋めきれないものを持ち合わせていた僕たちだから、心を通じるのにそれほど時間がかからなかった…
 いつしか、僕らはお互いを無くてはならない存在であることを意識するようになっていたよね…そして…僕らは何度も抱き合った…何度も頬ずりをした…何度もキスをした…まるで僕達からこぼれてしまう何かを取りもどすように…
 僕達は、幸せだった…そして君も、その幸せに応えてくれた…ほんとうに幸せって小さいものだと思った。

 でも…別れの時は突然だった…
 僕がその立場で上京するのが最後になる6月のその週、北は天気が悪かった。君は風邪をひいてしまった。涙目で送り出してくれる君の表情がまるで、「ウサギは淋しいと死んじゃうんだから…」と、訴えているようで辛かったことを、今でも覚えている。

 それが現実になるなんて…その時は思いもしなかった。

 僕が、東京から帰って来る日の朝…君は天国に逝ってしまった…
 帰ってきた僕に、家人は泣きながら弔ったことを話してくれた…
 もう、この手で君に触れることが出来ない…神様を恨んだ…泣いた…

 長い耳…潤んだ瞳…艶々の毛…小さい尻尾…大きい後ろ足…君が好きだった…
 今は…今も…、大好きな人が僕の心のそばにいてくれるのは、きっと君のおかげなんだと思う…ありがとう…

 あれから一年…、君の大好きなチモシーが清々しい緑になっているよ…
 天国から見えているかい…?

 天国のピョン子へ

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